石見神楽(いわみかぐら)は、祇園祭の宵山において行われる行事の一つ
八坂神社の能舞台にて、島根県人会による素戔嗚尊の大蛇退治の舞などが奉納される
<石見神楽(いわみかぐら)(国の無形文化財)>
日本神話などを題材として演劇性・エンターテインメント性を持つ大衆的な、神楽の一つ
島根県西部(石見地方)と広島県北西部(安芸地方北部)において伝統芸能として受け継がれている
室町時代後期には既に、石見地方において演じられていたといわれる
収穫時期に、自然や神さんへの感謝をあらわす神事として、神社において夜通し朝まで奉納されていたといわれる
明治時代、神職による演舞が禁止され、土地の人々の手に受け継がれ、民俗芸能として演舞されるようになった
<囃子>
大太鼓、小太鼓、手拍子、笛、鉦を用いて賑やかな囃子で演じられる
最初に「鈴神楽」、最後に「大蛇」が演じられ、その間の演目は毎年、変えられる
<鈴神楽(すずかぐら)>
神楽奉納の最初は、神迎えの舞の「鈴神楽」から始められる
この舞には、基本的な舞い方が全て入っていて、舞人が必ず教わる基本演目といわれる
一人で、手に鈴と扇を持って舞う
<天神(てんじん)>
平安時代、右大臣 菅原道真は、左大臣 藤原時平に謀られ太宰府に左遷されてしまう
その無念を晴らすために雷神となって、天から雷を降らし、悪しき心のため悪鬼になった藤原時平を討ち取る
神楽では、面を付けた菅原道真と藤原時平と戦うように創作されている
登場人物
菅原道真(天神)・随身 拆雷(さくいかづち)・藤原時平
<鞨鼓(かっこ)>
切目の王子に仕える神禰宜(かんねぎ)が、高天原から熊野大社に降りてきた鞨鼓と称される宝物の太鼓を祭礼の神楽のために
置こうとするが、なかなか神様の気に入る所に置くことができず、何度も置き替える様子をリズミカルな太鼓の調子にのり、
滑稽なしぐさで舞われる
演目「切目」と一連の舞で、「切目」の前に舞われる
登場人物
神禰宜(かんねぎ)
鞨鼓とは、小鼓(こつづみ)を横にしたような太鼓で、宮中の雅楽に使われ、台の上に置いて両面を細長い撥(ばち)で打って演奏する
<頼政(よりまさ)>
源頼政の鵺退治の神楽
平安時代末期、毎夜、丑の刻になるとヒョーヒョーと、奇妙な唸り声がして、東三条の森から黒雲がわき出てきて、
内裏 清涼殿の上を覆い尽くし、天皇はひどくうなされ病に伏せる
天皇は、弓の名手の源頼政に、正体が分からないものの退治を命じる
源頼政は、神明神社に祈願し、清涼殿を覆う黒雲の中で動く影に向かって「南無八幡大菩薩」と念じて矢を放つ
すると、奇怪な声をあげて、頭は猿、体は狸、尾は蛇、手足は虎の獣 鵺(ぬえ)が庭先に落ちてきた
登場人物
源頼政・猪早太(いのはやた)・民・猿・鵺(ぬえ)
<鍾馗(しょうき)>
中国 唐の玄宗皇帝が病に伏していたとき、「鍾馗大神」と名乗る鬼が疫神を芽の輪と宝剣を持って退治する夢を見る
鍾馗大神は、科挙に落第して宮中で自殺した学士であり、それを唐の初代皇帝が手厚く葬ってくれた恩義を返したく現れたと言う
皇帝が夢からさめると、病が癒えていて喜び、絵師を呼んで鍾馗の像を描かせると、夢に現れた大神にそっくりだった
この演目は、能楽「鍾馗」「皇帝」の物語と、八坂神社の祭神の素戔嗚尊と蘇民将来の「茅の輪」の故事が複合したものといわれる
京都の町家の屋根には、厄除けとして鍾馗さんがよく祀られている
登場人物
鍾馗(しょうき)・疫神(えきしん)
<恵比須>
大人(たいじん)(美保神社へ参拝した旅人)が、宮司から祭神の神徳や、とても釣りの好きであることなどを聞き、磯辺で待つ
そこにえびす神が現れ、鯛を釣り上げる
石見神楽では珍しい「脇能」の形式で、菓子撒き(紅白餅や飴など)や観客席へ釣り糸を垂れたりする
登場人物
大人(たいじん)・えびす神
<黒塚>
熊野那智山の東光坊の高僧 阿闍梨祐慶大法印(あじゃりゆうけいだいほういん)が剛力と修行の旅の途中、
陸奥国那須野ヶ原を通りかかり、妖艶な女主人の家に泊めてもらうことになる
法印は、悩みを相談されて、仏の教えを説き、剛力が女性の美しさに魅せられてるうちに、恐ろしい9尾の狐が現れ、
剛力は狐に食べられ、法印は命からがら逃げ出していく
それを知った弓の名人の三浦之介と上総之介が、天の鹿児弓と村雲の宝剣のご威徳により悪狐を退治する
登場人物
法印(ほういん)・剛力(ごうりき)・女悪狐(あっこ)・三浦之介(みうらすけの)・上総之介(かずさのすけ)
悪狐の面は、顎の部分がカクカク動く
悪狐は、お囃子の太鼓に登ったり、舞台上を走り回り法印を追い廻す
<大蛇(おろち)>
祇園祭の石見神楽で最後に奉納される演目
「石見神楽の華」と称される花形演目で、他所での神楽上演においても最終演目として披露されることが多い
八坂神社の祭神の素戔嗚尊の八岐大蛇(やまたのおろち)退治を題材とした内容
素戔嗚尊が、出雲の国で出会った老夫婦と娘(奇稲田姫)を助けるために、
8つの峰、8つの谷にまたがるほどの大蛇に酒を与え酔わせ、十束剣(とつかのつるぎ)を使い、大格闘を繰り広げる
スモークが焚かれ、大蛇の目が光り、口からは火を吹く
登場人物
素戔嗚尊・足名椎(あしなづち)・手名椎(てなづち)・奇稲田姫・大蛇4頭
大蛇の舞手は身体を胴の中に隠し身体を見せずに舞う