虞美人草(ぐびじんそう)(Gubijinsou)

著者:夏目漱石

時期:明治時代後期

タイプ:新聞連載小説

 虞美人草(ぐびじんそう)は、1907年(皇紀2567)明治40年、朝日新聞に連載された、夏目漱石の最初の新聞連載小説
 夏目漱石が職業作家として執筆した第一作

 漢文調の小説で、一字一句にまで腐心して書かれたといわれる

【京都と虞美人草】

 「虞美人草」の冒頭は、甲野と宗近という二人の男が、比叡山に登ることから始まる

 甲野家に入り込んだ甲野の母親的存在の「謎の女」、その娘でプライドの高い藤尾が主人公
 藤尾は、大学を出たての文学士 小野を結婚相手に狙っていた
 小野には、恩師の娘で可憐で優しい小夜子がいた

 甲野と、外交官を目指している友人の宗近の二人が、「虞美人草」の全体の4分の1ぐらい、
京都のあちこちを旅行して歩いている
 同じ頃、小野の恩師と小夜子もにいて、宗近によって目撃されている
 小夜子と父親は、甲野と宗近が乗った同じ汽車で、東京へと向って行く
 「謎の女」と、その娘 藤尾も京都からやってきたとされる

 「虞美人草」の主要登場人物のほとんどが直接間接に京都に関わっている

【虞美人草の本文】

 (冒頭部分の抜粋)
 渓川に危うく渡せる一本橋を前後して横切った二人の影は、草山の草繁き中を、
 辛うじて一縷の細き力に頂きへ抜ける小径のなかに隠れた。
 草は固より去年の霜を持ち越したまま立枯の姿であるが、
薄く溶けた雲を透して真上から射し込む日影に蒸し返されて、両頬のほてるばかりに暖かい。
 「おい、君、甲野さん」と振り返る。
 甲野さんは細い山道に適当した細い体躯を真直に立てたまま、下を向いて「うん」と答えた。
 「そろそろ降参しかけたな。弱い男だ。あの下を見たまえ」と例の桜の杖を左から右へかけて一振りに振り廻す。
 振り廻した杖の先の尽くる、遥か向うには、白銀の一筋に眼を射る高野川を閃めかして、
左右は燃え崩るるまでに濃く咲いた菜の花をべっとりと擦り着けた背景には薄紫の遠山を縹緲のあなたに描き出してある。
 「なるほど好い景色だ」と甲野さんは例の長身を捩じ向けて、際どく六十度の勾配に擦り落ちもせず立ち留っている。
 「いつの間に、こんなに高く登ったんだろう。早いものだな」と宗近君が云う。

 宗近君は四角な男の名である。
 「知らぬ間に堕落したり、知らぬ間に悟ったりするのと同じようなものだろう」
 「昼が夜になったり、春が夏になったり、若いものが年寄りになったり、するのと同じ事かな。
 それなら、おれも疾くに心得ている」

【その他】

 <ヒナゲシ>
 虞美人草(ぐびじんそう)は、ヒナゲシの別名


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