伴大納言絵詞(ばんだいなごんえことば)は、応天門の変を題材にした平安時代末期の国宝の絵巻物
「源氏物語絵巻」「信貴山縁起絵巻」「鳥獣人物戯画」と並んで四大絵巻物とされる
作者は常盤光長(ときわみつなが)とされている
四大絵巻物とされる国宝の平安時代末期の絵巻物
後白河法皇が、「年中行事絵巻」とともに宮廷絵師 常磐光長に描かせたとされる
紙本着色
上巻 31.5×839.5cm 詞書なし
中巻 31.5×858.7cm 詞書付き
下巻 31.5×931.7cm 詞書付き
応天門の変を、ドラマティックに脚色して描いた説話絵巻の代表作
大納言 伴善男(とものよしお)は、昇進を狙い、応天門に放火して、その罪を政敵である左大臣 源信(みなもとのまこと)に
負わせようと陰謀する
偶然のことからその陰謀が露顕し、伴大納言が失脚する
<上巻>
火災現場に向かう検非違使の役人たち
炎上する応天門と、それを風上と風下で眺める群集
風上の会昌門前で火事を眺める貴族ら
清涼殿の前庭に一人たたずみ、炎上する応天門を眺めているかのような後姿の人物
清涼殿で清和天皇(左)に対面する藤原良房
など
「宇治拾遺物語」によると
清和天皇の時代に、応天門が放火で焼失する事件が起こる
大納言 伴善男が、犯人として左大臣 源信と訴えたので、左大臣は処刑されることになる
しかし、隠棲していた太政大臣 藤原良房が、左大臣処刑の報をきいて驚き、普段着のまま馬を飛ばして、
清和天皇のもとに駆けつけ、左大臣に罪をなすりつけようとする者の虚言かもしれないので、
よくよく調べてから処罰されるのがよろしい、と進言する
よく調べられた結果、左大臣が犯人だという証拠もないので赦免されることになる
<中巻>
束帯姿で天道に無実を訴える源信
涙にくれる左大臣家の人々、左奥にいるのは左大臣の夫人と子とみられる
事件の真相発覚のきっかけとなった子供の喧嘩の場面
(「異時同図法」の典型的な例とされる)
伴大納言の出納の暴挙に叫ぶ舎人夫婦
など
詞書によると
左大臣は、無実の罪を嘆き、自邸の庭に荒薦(あらごも)を敷き、束帯姿の正装で天の神に無実を訴えた
馬に乗って赦免の使者がやって来るが、左大臣家の人々は悲しみ叫ぶ
しかし、左大臣が赦免されると知って、今度は大いに嬉し泣きする
左大臣は、宮仕えにより無実の罪をきせられることもあるのだと、宮仕えにも精勤しなくなってしまう
左京五条付近に住む右兵衛の舎人は、夜遅く役所の仕事を終えて家に帰ろうとし応天門の前を通りかかった時
応天門の楼上から、伴大納言と、大納言の子と雑色が降りてきて、南の朱雀門の方へ走り去るのを目撃する
舎人が、二条堀川付近まで帰っていくと「宮中が火事だ」と騒ぐ声がして、走り戻って見ると応天門が燃えていた
そして、左大臣が犯人として処刑されと聞いて、舎人は「真犯人は他にいるのに何ということだ」と思うが、口外はできずにいた
その後、左大臣が赦免されたと聞くと「無実の罪はいずれ晴れるものなのだ」と思う
時が過ぎ、舎人の子供と、隣家に住んでいる伴大納言の出納の子供とが喧嘩をしていた
舎人や伴大納言の出納も、子供の喧嘩を止めようと家から出てきた
出納は、自分の子供を家に入れて、舎人の子供の髪をつかんで伏せて、強く踏みつけた
舎人は、「子供の喧嘩で踏みつけるとは何事か」と言うと、
出納は、「舎人の分際が、おれの主君の大納言様がいる限り何をしようとかまわない」という
舎人は、「おれが黙っているから大納言も無事でいられるのだ、大納言の秘密をばらせばただではすまないぞ」と叫ぶ
<下巻>
伴大納言逮捕に向かう検非違使の一行
悲痛な面持ちで応対する大納言家の老家司
絶望して泣く大納言家の人々
大納言家の門から連行される大納言の車を涙ながらに見送る人々
連行される大納言を乗せた八葉車
など
詞書によると
舎人の子供と、伴大納言の出納の子供との喧嘩による騒ぎを多くの野次馬が見ていた
舎人が叫んだ話が、人から人へ伝わり、舎人は朝廷の役人の取り調べを受けることになる
舎人は、初めは無口だったが、「正直に話さないとお前も罰せられるぞ」と言われて真相を話す
その結果、伴大納言は取り調べを受け、流刑となる