室町時代末期から江戸時代初期にかけて、屏風などに盛んに描かれた
美術的価値だけでなく、都市構成や建築様式、武士や公家・庶民の生活を知る貴重な史料
洛中洛外図の多くのものは、6曲1双(6つ折れ屏風の2つ組)の屏風形式
政治的な意図により制作されたものが多く、御所や武家屋敷などが目立つように描かれている
狩野派により描かれたものも多く、構成も定型化しており、
江戸時代以前のものは右隻に下京、左隻に上京を描き、
以降ものは、右隻に東、左隻に西の街並みが描かれている
四季の風物や行事なども描かれ、祇園会の山鉾が描かれているものも多い
現存する「洛中洛外図」は約100点ほどあり、そのうち7件が国宝、重要文化財に指定されている(2013年1月時点)
<上杉本(国宝)>
紙本金地著色 六曲一双屏風、各双縦159.2cm・横361.8cm
狩野永徳の筆
上杉博物館(米沢市)の所蔵
安土桃山時代
1565年(皇紀2225)永禄8年9月
狩野永徳が、将軍 足利義輝に命じられ描いたものが完成
足利義輝はすでに死去しており、織田信長が入手したといわれる
1574年(皇紀2234)天正2年
織田信長が、上杉謙信に贈ったとされる
天文年間(1532年〜1555年)後半の、相国寺の七重大塔から眺めた京都の四季の景観が描かれているといわれる
金の雲間から尖った屋根をのぞかせる表現が特徴的
右隻は、西側からの景観で、御所が左端に描かれ、祇園会の山鉾と、鴨川と東山の名所が、
左隻は、東側から北山・西山方面の景観で、花の御所・相国寺・公武の屋敷、嵯峨野・高雄・栂尾・北山・鞍馬などが描かれている
一双全体で、様々な身分や職人が2485人も描かれ、街路名や方位など237件の文字注記があり、
当時の京都を具体的に知る貴重なもの
<町田家旧蔵 町田本(重要文化財)>
六曲一双
現存する洛中洛外図屏風の最古のもの
三条公爵家に伝来し、町田家が所蔵していたもの
現在は、国立歴史民俗博物館の所蔵で、「歴博甲本」とも称される
狩野元信一派の作といわれる
1525年(皇紀2185)大永5年から1536年(皇紀2196)天文5年頃の天文法華の乱以前の景観が描かれている
左から右へ春から冬へと季節が移り変わっているのが特徴
一隻の前景に一条通から御霊前通までの上京、その背後に松尾大社から上賀茂神社にいたる洛外の風景が描かれている
もう一隻の前景に、一条通から五条通までの下京、背後に延暦寺から東福寺までの東山の洛外が描かれている
左隻画面中ほどに、祇園祭の山鉾が描かれている
右隻6扇には、念仏踊りの風流が描かれている
1359人が描かれているといわれる
地理的な整合性が高く、四季が色濃く表現されている
<舟木本(重要文化財)>
六曲一双
岩佐又兵衛の作といわれる
東京国立博物館の所蔵(もとは近江長浜の医師 舟木家が所蔵)
並べると約7mの左右隻が連続する構図の珍しいもの
南からみた京都の景観を、東から西へ連続的に展開させ、鴨川の流れが左右の画面をつないでいる
1615年(皇紀2275)元和元年の大坂夏の陣の直前の景観といわれる
右隻に豊臣秀吉が建てた方広寺や豊国廟が、左隻には徳川家康が建てた二条城が、左右に対峙されて描かれている
中心に市街地が大きく描かれ、歌舞伎小屋や遊女屋など、庶民の生活なども描かれている
建物や人々をクローズアップして取り上げていることが特色で、2728人の人物が描かれている
左隻2扇の三条大橋と高瀬川に架かる小橋が続くあたりには、祇園祭の様子が描かれている
その辺りには、南蛮人や芸人、店先での商いの様子などが描かれている
下方には、東寺があり、堂内で読経している僧、隅で若い人を抱きしめる僧の姿が描かれている
右隻4,5扇には、五条大橋があり、花見の宴のあとで桜の枝や扇、日傘をもった集団が踊りながら賑やかに橋をわたっている
橋の下には、薪を満載する高瀬舟が2艘並んで鴨川を上っている
五条大橋から四条大橋にかけての四条河原には、人形浄瑠璃、遊女歌舞伎など芝居小屋がひしめいている
<高橋本(重要文化財)>
六曲一双
国立歴史民俗博物館の所蔵(もとは高橋家が所蔵)
「歴博乙本」とも称される
狩野松栄(狩野永徳の父親)の作といわれる
1618人の人物が描かれている
<勝興寺本(重要文化財)>
六曲一双
勝興寺(富山県高岡市)所蔵
元和年間(1615年〜1624年)の京都が描かれている
二条城と方広寺大仏殿が対比されて描かれている
狩野派の作といわれる
<池田本(重要文化財)>
六曲一双
林原美術館の所蔵で、岡山藩の池田家に伝わったもの
元和年間(1615年〜1624年)の京都が描かれているといわれる
<福岡市博本(重要文化財)>
六曲一双
福岡市博物館の所蔵
桃山時代の作
市中をクローズアップして人々の風俗を表現することに主眼がおかれた作品
<東博模本>
東京国立博物館の所蔵
江戸時代に制作された模本で、狩野永徳が描いた原図を写したものといわれる
描かれているのは、町田本(歴博甲本)に次いで古い1539年(皇紀2199)天文8年頃の景観といわれる
<妙法寺本>
佐渡両津の回船問屋本間家が京都で入手した屏風
1743年(皇紀2403)寛保3年
妙心寺に寄進される
描かれている両替屋の大福帳に「1621年(皇紀2281)元和7年」の記載がある
<高津本(こうづぼん)>
高津古文化会館の所蔵
三条通を境にして、上京・下京が両隻に描かれている構図の珍しい屏風
江戸時代初期に描かれたものといわれる