日本書紀(にほんしょき)は、奈良時代に成立した日本最古の勅撰正史・歴史書
天武天皇の勅命により編纂された、皇室や日本国の歴史上の位置付けを行うための国家の大事業であったとされる
神代から持統天皇の代の終わり(697年(皇紀1357)持統天皇11年)まで年代順に記載されている
ほぼ同時代の「古事記」と合せて「記紀(きき)」と称される
天武天皇の勅命により国家の大事業として編纂された、皇室や日本国の歴史上の位置付けを行うのための正史
神代から持統天皇の代の終わり(697年(皇紀1357)持統天皇11年)まで、漢文で年代順に記載されている
「古事記」は「帝皇日継(ていおうのひつぎ)(帝紀)」と「先代旧辞(せんだいくじ)」だけを素材として、
様々な伝承や説話のうち一つの正説を定めて筋を通して記されている
「日本書紀」は、様々な資料を活用し、文章を整えるためにも漢籍、仏典を豊富に引用して、合理的・客観的に詳細に記されており、
諸説を一つに選定せず、「一書」「分注」などが付記されている
・多くの神話・伝説
・歴代天皇の名前・生享年・皇位継承の次第・治世年数・皇居の所在地などを記した「帝皇日継(ていおうのひつぎ)(帝紀)」
・歴代の諸説話・伝説・歌物語等を記した「先代旧辞(せんだいくじ)」
・朝廷の記録
・諸家の記録
・各地に伝えられた物語
・詔勅
・壬申の乱の従軍日記など、個人の日記手記
・寺院縁起など
・「漢書(かんじょ)」「後漢書」「淮南子(えなんじ)」など中国・朝鮮の史料
などを広く用いている
なお、歴代天皇の漢風諡号は「日本書紀」の成立時にはなく、諱または和風諡号で記されている
目次
<巻第一>
神代上(かみのよのかみのまき)
天地開闢と三柱の神
男女四対の八神
神世七代(かみのよななよ)
国産み(おの馭慮島での聖婚と大八洲国の誕生)
神産み(天照大御神・月夜見尊・素戔嗚尊の誕生)
天照大御神と素戔嗚尊の誓約、五男三女神の誕生
素戔嗚尊の乱暴、天の岩戸隠れ
素戔嗚尊の八岐大蛇退治
<巻第二>
神代下(かみのよのしものまき)
葦原中国の平定、天孫降臨、木花之開耶姫
山幸彦と海幸彦、彦波瀲武うがや葺不合尊の誕生
神日本磐余彦尊(かむやまといはれびこのみこと)(神武天皇)の誕生
<巻第三>
神日本磐余彦天皇(かむやまといはれびこのすめらみこと)(神武天皇)
神日本磐余彦尊の東征
五瀬命の死
八咫烏(やたがらす)
兄猾(えうかし)と弟猾(おとうかし)
兄磯城(えしき)と弟磯城(おとしき)
長髄彦と金鵄(きんし)の飛来
大和の平定
橿原宮の造営と即位
<巻第四>
神渟名川耳天皇(かむぬなかはみみのすめらみこと)(綏靖天皇)
磯城津彦玉手看天皇(しきつひこたまてみのすめらみこと)(安寧天皇)
大日本彦耜友天皇(おほやまとひこすきとものすめらみこと)(懿徳天皇)
観松彦香殖稲天皇(みまつひこかえしねのすめらみこと)(孝昭天皇)
日本足彦国押人天皇(やまとたらしひこくにおしひとのすめらみこと)(孝安天皇)
大日本根子彦太瓊天皇(おほやまとねこひこふとにのすめらみこと)(孝霊天皇)
大日本根子彦国牽天皇(おほやまとねこひこくにくるのすめらみこと)(孝元天皇)
稚日本根子彦大日日天皇(わかやまとねこひこおほひひのすめらみこと)(開化天皇)
<巻第五>
御間城入彦五十塑殖天皇(みまきいりびこいにゑのすめらみこと)(崇神天皇)
天皇即位と遷都
疾疫の流行と大物主大神の祭祀
四道将軍と武埴安彦の反逆、三輪山伝説
御肇国天皇の称号、嗣子決定
出雲神宝の献上
<巻第六>
活目入彦五十狭茅天皇(いくめいりびこいさちのすめらみこと)(垂仁天皇)
誕生と即位
任那、新羅の抗争
狭穂彦王の謀反
当麻蹶速と野見宿禰
誉津別王
伊勢の祭祀、出雲の神宝検校
野見宿禰と埴輪
石上神宮と神宝
天日槍と神宝
田道間守と非時香菓
<巻第七>
大足彦忍代別天皇(おほたらしひこおしろわけのすめらみこと)(景行天皇)
天皇即位と立后
諸賊、土蜘蛛
天皇西征と神夏磯媛の提言
碩田国の土蜘蛛討伐
熊襲平定と九州巡幸
日本武尊の熊襲征討
日本武尊の東征と弟橘媛の入水
日本武尊の病没と白鳥の陵
稚足彦天皇(わかたらしひこのすめらみこと)(成務天皇)
天皇即位と詔勅
国、県の制定
<巻第八>
足仲彦天皇(たらしなかつひこのすめらみこと)(仲哀天皇)
天皇即位、日本武尊の追慕
熊襲征伐と神功皇后の同行
神の啓示と崩御
<巻第九>
気長足姫尊(おきながたらしひめのみこと)(神功皇后)
神功皇后の羽白熊襲征伐
新羅出兵
かご坂王・忍熊王の謀反
誉田別皇子の立太子
百済、新羅の朝貢
百済・新羅の対立
新羅再征討
<巻第十>
誉田天皇(ほむだのすめらみこと)(応神天皇)
天皇の誕生と即位
武内宿禰と弟の讒言
髪長媛(かみながひめ)と大鷦鷯尊(おおさざきのみこと)
弓月君・阿直岐
兄媛、吉備行幸
立太子問題
<辛酉革命>
中国の陰陽五行説に基づき
「天道不遠 三五而反 六甲爲一元 四六二六交相乗 七元有三變 三七相乗 廿一元爲一蔀 合千三百廿年」から
辛酉の年(しんゆうのとし)は、革命が行われる年とされ、
1260年に一度の辛酉の年には、王朝交代など国家的な大革命が起こるといわれる
1元(げん)は、干支が一巡する60年
1蔀(ぼう)は、21元で、1260年(60年×21元)
<皇紀元年の設定(神武の即位の年)>
「日本書紀」には「辛酉年春正月庚辰朔 天皇即帝位於橿原宮是歳爲天皇元年」と
神武天皇が即位したのは辛酉の年と記されている
聖徳太子が、辛酉革命の思想にもとづき、
推古天皇が斑鳩の地に都を置いた601年(皇紀1261)推古天皇9年の辛酉の年を起点として
1260年遡った紀元前660年(辛酉の年)を神武天皇が即位され大革命が起こった年と設定したとされる
<編年体史書>
神代紀以外は、干支による紀年で記載されている
神功紀・応神紀は、干支2巡120年繰り下げると「三国史記」と年次が一致するとされる
「古事記」は物語調であり年次が記載されていなく、
天皇の崩御年の干支について、一致するものと一致しないものがある
<本文と一書(あるふみ)>
本文の後に注の形で「一書に曰く」として多くの異説が書き留められている
編纂にあたり、「文献に古字が多くて分かりづらく様々な異伝が存在してどれが正しいのか判断できない場合には、
一つを選んで記して、それ以外の異伝についても記せ」と命じられたとしている
<分注(分註)>
訓読や書名を示した文献引用など、本文とは別に割注記事が記されている形式になっている
<太歳記事(大歳記事)>
各天皇の即位の年の末尾に、その年の干支を記した記事
<諱(いみな)と和風諡号>
天皇の名前には、天皇の在世中の諱(いみな)と、没後に奉られる諡(おくりな)とがある
「日本書紀」の時代には、漢風諡号はなく、諱または和風諡号で記されている
<日本紀講筵>
平安時代前期に、宮廷で公式の行事として行われた「日本書紀」を講読し研究する会
「釈日本紀」康保二年外記勘申によると
721年(皇紀1381)養老5年から、965年(皇紀1625)康保2年頃まで行われていた
<現存本>
原本は焼失しており、写本しか現存していない
<写本>
古本系統(こほんけいとう)と卜部家本系統(うらべけぼんけいとう)の写本に分類される
神代巻(巻第一・巻第二)の一書が小書双行になっているものが古本系統
大書一段下げになっているものが卜部家系統
原本は、古本系統諸本と同じく小書双行であったといわれる
<図書寮本(書陵部本)>
古本系統
平安時代末期の写本
巻第十・巻第十二から十七・巻第二十一から二十四
訓点あり(巻第十には訓点がない)、声点は四声体系
第14巻と第17巻は前田本と、第22巻から24巻は北野本と、それぞれ同系統
宮内庁書陵部の所蔵
<岩崎本>
古本系統
平安時代中期の写本
巻第二十二・巻第二十四
訓点付きのものとしては最古のもの、本文の声点は六声体系
図書寮本と比較すると、本文・訓点ともに相違は大きい
京都国立博物館の所蔵
<北野本 第1類>
古本系統
平安時代末期の写本
巻第二十二から巻第二十七
訓点あり
鎌倉時代末期から南北朝時代に、神祇伯であった白川伯王家・資継王が所蔵
室町時代中期に、吉田家系の卜部兼永の所有となる
北野天満宮所蔵
<鴨脚本(嘉禎本)>
古本系統
鎌倉時代1236年(皇紀1896)嘉禎2年の写本
巻第二
訓点あり、本文・訓点とも大江家系
下鴨神社の社家 鴨脚(いちょう)家の旧蔵本
國學院大學の所蔵
<図書寮本(書陵部本)>
卜部家本系統
南北朝時代 1346年(皇紀2006)正平元年/貞和2年の写本
巻第二
訓点あり
北畠親房の旧蔵本
宮内庁書陵部蔵
<卜部兼方本(弘安本)>
卜部家本系統
鎌倉時代中期 1286年(皇紀1946)弘安9年の写本
巻第一・巻第二
訓点あり、声点は四声体系
平野家系の卜部兼方の書写
京都国立博物館の所蔵
<北野本>
卜部家本系統
第2類:巻第二十八から巻第三十:平安時代末期から鎌倉時代初期の写本
第3類:巻第一・四・五・七から十・十二・十三・十五・十七から二十一:南北朝時代の写本
第4類:巻第三・六・十一:室町時代後期の写本
第5類:巻第十六:幕末維新の写本
訓点あり(第1巻を除く)
第2・3類は第1類と同様の白川伯王家・資継王の旧蔵本
資継王が加点しており、本文とは異なり訓点は伯家点系となっている
北野天満宮所蔵
「古事記」は「帝皇日継(ていおうのひつぎ)(帝紀)」と「先代旧辞(せんだいくじ)」だけを素材として、
諸説のうち一つの正説を定めて筋を通している
「日本書紀」は、「古事記」の完成から8年後に完成する
帝紀、先代旧辞、諸家の家記、政府の記録、個人の日記手記、寺院の縁起類、朝鮮側史料、中国史書など
様々な資料を活用し、文章を整えるためにも漢籍、仏典を豊富に引用して、合理的・客観的に詳細に記されており、
諸説を一つに選定せず、「一書(あるふみ)」「分注」などが付記されている
<古事記−日本書紀の比較>
勅命: 天武天皇 − 天武天皇
巻数: 3巻 − 30巻+系図1巻
歌: 112首 − 128首
編纂期間: 4か月 − 39年
完成: 712年(皇紀1372)和銅5年 第43代 元明天皇 − 720年(皇紀1380)養老4年 第44代 元正天皇
表現: 物語調 − 編年体(出来事を年代順に記載されている)
文字: 和化漢文(日本語の音を漢字で表記) − 漢文
神話の時代: 3巻中1巻を占める − 30巻中2巻のみ
内容: 日本国内のことがほとんど − 朝鮮半島の出来事も記載
目的: 天皇家の歴史を記す(国内向けの天皇家の正当性をアピール) − 国家の公式な歴史を記す(国外に向けて日本をアピール)
史料: 正説を一つ定める − 本文と一書(あるふみ)、分注などで諸説を併記
<六国史(りっこくし)>
日本の歴史が記された6つの正史の総称
日本書紀・続日本紀・日本後紀・続日本後紀・日本文徳天皇実録・日本三代実録
<絞り染めの技術>
7世紀頃に、絞り染めの技術が日本に伝わっており、日本書紀の記載が絞り染めの最古の記録とされる
万葉集にも絞り染めの衣装を詠んだ歌がある
後に、京鹿の子絞などとして広がる